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12 May 2005

趣味の恩人

十八代目勘三郎襲名披露の四月公演を観た。四月の夜の部は、毛抜(けぬき)、
口上、籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)という演目。

毛抜とは、なんとも滑稽な他愛のない話しで、始終ニヤニヤとしながら見た。病後、歌舞伎座に初めて復帰された団十郎さんの気風のいい真面目な太い演技がぴったりで、それがさらに笑いを誘う。

口上は、ずらりと並ぶ役者さんたちの話しぶりやその内容に、改めてそれぞれの役者さんの持つ個性を感じる。襲名披露というものに、観客として同席できることはなんて幸せだろうといつも涙してしまう。

そして、籠釣瓶。しばし真っ暗になった場内。静かに幕があき、パッと舞台に照明があたる。目の前に急に開ける吉原の街の華やかな彩りに、場内から思わずため息がもれた。勘三郎さんの次郎左衛門ももちろんよかったが、私は仁左衛門さんと玉三郎さんの艶っぽさ、美しい立ち姿と所作に目が行ってしまってばかりだった。

私が歌舞伎を面白いものだと意識し始めたのは、中学生の時。NHKの大河ドラマ『黄金の日々』の主役、呂栄助左衛門を演じる六代目市川染五郎(現九代目幸四郎)さんを大好きになり、それを知った父の知り合いが、六代目染五郎さんが出る国立劇場の歌舞伎のチケットをプレゼントしてくれたのがきっかけだった。

初めて観る怪談ものの歌舞伎。青白い舞台の井戸の前で繰り広げられる出来事を本当に楽しんで観た。この時に、歌舞伎って面白い、と中学生の私にインプットされてしまったようだ。

その後、高麗屋三代襲名披露という大きな公演が歌舞伎座であり、小学生の妹と中学生の私と二人で出かけた。歌舞伎座の前の人ごみに混じって開場を待つ、あの時の高揚した気持ちは、20年以上たった今でもはっきりと覚えている。

初めての歌舞伎座で観る、初めての助六。助六の頭にまいた紫の布の色、高い下駄を履くあでやかな花魁、舞台全体が発色しているような、今までに接したことのない色の組み合わせ。何もかもが新しくて美しい。そして、九代目幸四郎さんの助六が粋でかっこいい。子どもながら、幸四郎さんって脛(すね)がなんてきれいなんだろうと思いながら、舞台をみつめたことを思い出す。

その後、三階席専門で歌舞伎座に気軽に出かけるようになった。一回目の幕間には三越の地下で買ったお弁当や歌舞伎茶屋のおでんを食べ、次の幕間では小倉最中かくずきりを食べる。残りの時間は歌舞伎座の中をうろうろと歩く。歌舞伎座は何度行っても心が躍るほど楽しい。

呂栄助左衛門の幸四郎さんは、私に歌舞伎の楽しさを知るきっかけをくれた。スウィーニートッドやラ・マンチャの男、アマデウスなどで現代劇の面白さも教えてくれた。そこから発展して、狂言、英国のシェイクスピア劇、ロイヤル・バレエなどのさまざまな舞台に、毎月何度も出かけることが趣味になった。

幸四郎さんは、私の『趣味の恩人』なのかもしれない。

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